起業までの経緯 【PDFはこちら】
廃棄や安売りを防ぐ
余剰在庫の景品化へ
イノベンチャーのビジネスモデルへ辿り着くまでには、いくつかのターニングポイントがあった。
「父親が大学教授という環境で育ったため、とにかく大学に行かないと生きていけないと思っていました。
ただ、大学受験では二浪しているんですよ。当時はとても恥ずかしくって、それで実家を出て一人暮らしを始めたのです。
食肉の卸業者で働きながら、自分でアパート代も稼いでいました。
その時に、お金をもらうことと勉強ができるということはあんまり関係がないということに気づくことができました。
仕事をやればやっただけ評価されてお金をもらえるのだと。
最初に就職したのが、飲食店向け中古厨房機器販売の会社でした。
飲食店というのは、開業率も廃業率もものすごく高いですよね。
開業してもすぐに潰れてしまう店舗が多いし、廃業時には、使用していた厨房機器をお金を払って処分しなければならない。
そこに目をつけたビジネスでした。
廃業する店舗から処分予定の備品をまとめて買い取って、それをリサイクルして販売するのです。
そこの店舗開発部で働いていたのですが、あるとき社長が、某大手化粧品会社が廃棄する品を買って来いって言うんですね。
とりあえずその化粧品会社に電話すると、全く相手にされず断られました。
仕方がないので、何かで挽回したいと考え、某激安雑貨店に行ったんですよ。
『引っ越しのためにダンボール箱を分けて欲しい』とお願いして、ダンボール箱が置いてある部屋に通してもらいました。
そこにあるダンボールには、商品名と、どこから納品されたのかが書かれていたので、それらを全てエクセルに打ち込み、
その激安店の仕入先のリストをつくったのです。それでなんとか化粧品会社のことは許してもらいました。
その後もフランチャイズの事業部長になり、八店舗ほど黒字化したのですが、会社と幾つか意見の相違があって退社に至りました。
次に就職したのが、フランチャイズのコンサルティング会社です。このとき初めてブランディングや経営について勉強したんですよ。
そして、ブランドがいかに大切なものなのかを知ることができました。以前、化粧品会社が処分品を売ってくれなかった意味も理解できたのです。
それならば、『買い取った商品を転売せずに、景品として用途限定でお客さんに配る』というのはどうだろうかと考えました。
この発想こそが、当社を起業するきっかけでした」
起業の根底にあった専門力で補い合うという発想
余剰在庫の処分というメーカーの苦手分野に着目し、豊富な商流という得意分野で応える。
起業には、こうした苦手分野を補い合う分業の精神があった。
「よく、ギブ・アンド・テイクとは言いますが、いつも自分の貸し方を優位にしている人ほど出世するのだと思っています。
自分が持つ専門力で一生懸命尽くせば、いつか困ったときに、相手が持つ専門力で返してもらえるのだと。
お互いの専門力で補い合えれば、互いにハッピーになれます。つまり、一つでも得意技があれば良いのです。
学校教育では、五教科全てを自分で受けなければいけませんでした。
どれかがずば抜けて良くても、全体的な平均点が低いと評価されません。
ところが大人になるとこのルールが変わります。
理科が得意な人は理科をやればいい。漁師は魚を獲ることに専念すればいい。
自分の得意なことで世の中に貢献できる、それこそが分業の意義なのです。
ただし、個人の秀でた能力を引き出してくれる会社と引き出してくれない会社があるので、じっくりと環境を選ぶことが重要なのだと思います」
「モノ」から「コト」へビジネス領域をさらに拡大
自社のビジネスは、無料の広告代理店に例えることができると横山さんは語る。
「企業の余剰在庫を私たちがお金を払って買い取り、それをエンドユーザーに配ることで、
気に入ってもらえれば再度店頭での購買意欲を刺激することができます。
だから当社のビジネスは、サンプリングを手伝う無料の広告代理店だと言うことができます。
本来ならサンプリングにはコストがかかりますが、私たちは逆に対価を支払う立場なので、この手のコンペでは広告代理店に負けたことがありません。
また、今までは余剰在庫という『モノ』が主軸でしたが、今後は、サービスや遊休時間といった『コト』をもサンプリングしていく考えです。
例えばスポーツ観戦であったり、ホテルのスイート・ルームであったり、空いている時間やサービスがあれば、
それらをどんどんサンプリングしていきたいと思っています。
飲食店などでも、営業中なのにお客さんが入らない時間帯があれば、それを私たちが買い取って、お客さんの来店を促すことができます。
ご要望があれば、ぜひお声がけいただければと思います」
2016年9月号「アップルタウン」掲載